まずはこのブログでも、弊社(株式会社日本アート)が2026年2月28日付で事業を終了したことをご報告させていただきます。
弊社事業の終了から1ヶ月が経過して4月に入っておりますが、今もまだ各お取引先様の皆様から弊社で行っていためっきについて様々なお問い合わせを連日のように頂いており、社内の片付けをしながら返答させていただいている状況です。
各お取引先の皆様方におきましては、大変なご迷惑をおかけします事を深くお詫び申し上げるとともに、これまでに皆様から賜りましたご愛顧に対し、心より感謝御礼申し上げます。
事業終了するに至った経緯について
結論から言うと、老朽化した工場を建て直せない事が最大の理由です。
弊社は昭和44年(1969年)創業で、その時から同じ建屋を現在に至るまで、57年間使用しておりました。
当初の工場建て替え見積もりでは約1億程度の資金が必要と言われておりましたが、2022年2月に始まったロシア-ウクライナ紛争や本年(2026年)2月より発生したイランによるホルムズ海峡の封鎖が原因で、原油・重油・石化製品・電気料金がさらに高騰したことによって建て替え見積もりが4倍以上となったうえ、着工しても資材が入らないのでいつ完成できるかわからないという状態になりました。
また日本では、めっき業はガソリンスタンド等と同じく水質汚濁防止法施行令第1条の規定により特定施設と言う扱いになるのですが、この特定施設になるとめっきをするために必要な薬品の管理・使用及び排水処理にかかる法規制や許認可をクリアしなくてはなりません。(※これに違反すると即事業停止)
しかし、この法規制はきっちり守っていても毎年基準がどんどん厳しく変更され、その都度後追い自腹で対応を求められるという追い打ち仕様です。
弊社としても先々のことを考えて年々厳しく変更されるこの法規制等に対応していくためにはもう工場を建て替えて設備更新したかったのですが、このような状況では建て替えは実質不可能ですので廃業せざるを得なくなったのが切実な実情です。
※ちなみにこの許認可ですが、新規ではほとんど出ません。実質日本のめっき業界は新規参入がほぼ不可能な業界です。
めっきの代替先について
弊社が事業を終了してから既に1ヶ月が経過してもう4月に入りますが、いまもまだ連日の様に代替のめっき屋さんの紹介依頼や、弊社で行っていた表面処理の手法(技術)を聞きにこられる方が後を絶ちません。
代替先として、主に以下のめっき屋さんをご案内させていただいております。
主なめっきの代替先様一覧
栄光工業株式会社様(福山)
弊社で処理できない大物へのめっきを行う際の外注先としてお世話になった栄光さん。大物への亜鉛めっきや無電解Niめっきが得意。
柿原工業株式会社様(福山)
私がめっき技能士の資格試験を初めて受けた際に、機材の不調にすぐに気づいて対応してくださるほどにずば抜けた技術と経験を持つ人材を擁されている柿原さん。福山で最も安定した高品質なめっきを求めるなら柿原さん一択。
ただし、個人的には素材状態が劣悪なものを柿原さんへ持って行って低単価で良くしてくれというのは失礼だと思う。
ぶっちゃけ、柿原さんで蹴られた仕事大体ウチに来てたけど、、、柿原さんが嫌がる理由がわかりすぎる。。。
株式会社エフテックス様(福山)
弊社で処理できない硬質クロムの外注先としてお世話になったエフテックスさん。福山で硬質Crをお願いするならエフテックスさん一択。
ただし、超複雑形状への全面均一硬質クロムとか、膜厚の指定があまいなまま要求は普通に蹴られると思うので、きちんとお話を聞いてそれなりに硬質クロムのことを勉強して依頼したほうがスムーズに行くと思う。
ライブワーク株式会社様(福山)
社員全員がめっき技能士資格を取得されているので安心。
福山メッキ工業株式会社様(福山)
三菱電機さん御用達
ケイエスエス有限会社様(福山)
弊社で処理できないアルマイトの外注先さんとしてお世話になったケイエスエスさん。福山でアルマイトをお願いするならケイエスエスさんがおすすめ。品質も良好。
株式会社大塚金属様(福山)
リョービさん御用達の大塚さん。自動機での処理で手広くされてる。
有限会社府中メッキ工業所様(府中)
リョービさん御用達の府中めっきさん。主に黒染めを手広くされてる。一部三菱電機さん向けもされてる。
富士金属工業株式会社様(三原)
三原にある老舗の富士金さん。古川製作所さんの仕事を受けられてる。
親和金属株式会社様(安芸府中)
弊社でしていた電気Niめっきの代替先は親和さんがおすすめ。品質も安定してる。
有限会社黒川鍍金工業所様(広島)
めっき技能試験の治具づくり講習で何度も何度もお世話になった心優しいイケおじ師匠こと黒川さん家のめっき屋さん。旧車パーツの再めっき代替先は黒川さん一択。
もともと黒川さん自身がマツダさんにいた経験もあって旧車パーツへの再めっきは特に品質が高く、目を見張るほど美しいクロムめっきをされている。
日本バレル工業株式会社様(広島)
めっき技能試験対策講座を初めて受けたときに、1人で受講していた私を心配してあれこれアドバイスしてくださり、足りない道具があれば貸してくれ、手取り足取り教えてくださった心優しい日本バレルさん。
弊社で行っていた銅めっきの代替先をお探しの方は県内だとバレルさんしかないと思う。ただし、弊社の銅めっきとは浴の種類が違うので皮膜特性に注意。特に重量物に関しては要相談。
株式会社ワイエスデー様(広島)
亜鉛や亜鉛-合金めっきを中心に手広く行われております。
オーエム産業株式会社様(岡山)
めっきの技能試験でもお世話になったオーエムさん。自社で研究所を持たれており、博士もいる。
最先端のめっき技術を駆使して技術提案をしてくれる岡山のスゴイめっき屋さん。弊社で行っていたNiめっきの代替先はオーエムさんがおすすめ。
有限会社リーヴ様(大阪)
大阪で黒染めを主体に表面処理を行われているリーヴさん。黒染めの処理技術に定評がある。仕上がりの品質も高い。
株式会社野村鍍金様(本社大阪・福山工場有)
言わずと知れた泣く子も黙る日本最大手のめっき屋さん。本社は大阪にあるが、福山にも工場があり、その技術力は業界随一と言っても過言ではない。
新卒で面接を受けたが、最終面接で当時の社長さんに「君の実家もめっきやってるんでしょ?なら途中で帰らなきゃいけなくなったらウチも困るからさ、やっぱりだめだよ。」と諭されてしまった。あのときは悔しかったが、そのおかげで今まで腹を据えて頑張ってこれた。当時の社長さんには、本当に感謝しかない。
めっき・表面処理の質問について
現在弊社に連日のように意見や質問が寄せられておりますが、その中身は主に以下の内容が大半です。
・どの様にめっき・表面処理を行っていたのか?
・代替先のめっき屋さんは技術的にどうなのか?
・これまで日本アートにお願いしていためっきを他社に依頼したが、仕上がりが悪い。なぜか?
・日本アートにお願いしていた表面処理の代替先がないがどうすればいいか?
弊社としましてはまず、弊社に相談なさっていただいたときと同じ様に代替先のめっき屋さんに「どのようなめっき・表面処理をしてほしいのか?」をしっかり相談なさっていただきたく思います。
そのためには、めっき屋さんに相談される前に「自分達がどういっためっき・表面処理を求めているのか?」「自分達に必要なめっき・表面処理はどういったものか?」をよくよく吟味して考える必要があります。
このような下地なくしてめっき屋さんにある日突然行って「どんな状態においても良いめっき」を求めるのであれば、そんなものはどこにもないと先に御解答を差し上げます。
というのも、弊社と他社さんではめっきの設備やめっきの手法において設計思想が全く違うため、同じめっきをしたとしてもその仕上がりの品質が全く違うのは当たり前だからです。
つまり、めっきや表面処理を知らない人が弊社で聞きかじった情報をもとによそのめっき屋さんに行って弊社と違う設備の中で弊社のやり方と似たようなことをしたとしても、弊社と同じ仕上がりの品質にはならないということです。
よそのめっき屋さんにはよそのめっき屋さんのやり方がるし、めっきにはそれぞれ長所と短所があるので、まずはこの部分をきちんと理解し尊重したうえで相談されてください。
また、一部のめっきや表面処理において代替先のないものに付きましては、内製化していただくか、素材を変えていただくか、諦めてもらうしかありません。
こればかりはどうしようもありませんのでご容赦願います。
めっき・表面処理という科学
めっき・表面処理というと、多少かじったことのある人はばけがくの方の化学だと思われる方が非常に多いと思いますが、私がこれまでめっきを行ってきた上で言えばめっきや表面処理というのは科学です。
科学と化学、何が違うんだと思われる方が多いと思いますが広辞苑をもとにかんたん定義を言えば以下のとおりです。
科学(かがく・英:Science)
観察や実験など経験的手続きにより実証されたデータを論理的・数値的処理によって一般化した法則的・体系的知識
化学(ばけがく・英:Chemistry)
諸物質の構造・性質並びにこれらの物質相互間の反応を研究する自然科学の一部門
めっきや表面処理は薬品を使う化学だからやり方(処理液や工程)さえわかっていれば誰でも同じ様にできるとカンタンに思われがちですが、これはめっきや表面処理をわかってないド素人が言う事です。なんでもかんでも同じ様にすればうまく行く、というわけではありません。
なぜかというと、同じ素材の同じ製品であったとしても素材金属のミクロな状態は個体やロットごとに微妙に違っていて、同じ素材で違う製品となるとまたさらに状態が違っているからです。
私は金属材料がミクロな視点で見ると実はすべて全く同じではなく、各条件や状態によって同じ素材でも全く違う形態や性質を示すということを、近畿大学理工学部機械工学科複合材料研究室の淺野和典教授に教わりました。
こういった小さく細かい違いにその都度気づいて最適化を行えなければ、安定した品質を保つことはできず顧客の要求を叶えることなどできません。
これを可能にするには、めっきや表面処理に必要な化学的な知識だけでは不十分です。もっともっと広い科学的知見がなければ、この小さく細かい違いに気づくことすらできないのです。
当然、めっきの依頼を出す側もそれなりにめっきを学んでいなければこの違いは認知できないでしょうし、めっきを依頼する前に自社でできる最適化をしなければ、結果としてめっき屋さんに対して無茶苦茶で過度な要求をするだけとなるため、嫌がられたり煙たがれるでしょう。
近年のめっきの動向について
近年めっきの業界でも自動化が進み、めっき自動装置を導入されているめっき屋さんが増えていることはみなさんもご承知のとおりだとは思いますが、私もこういった流れを見越して近畿大学理工学部機械工学科の知能機械システムコースに行きました。
私がPCレストアやWidowsでもMacでもないLinuxOSが得意なのは、当時の近畿大学理工学部機械工学科メカトロニクス研究室の大坪義一准教授に一通り教えていただいて身に着けたものです。
今だから言えますが、実は私、大学4年で1度留年しています。半分くらいは自分に必要になると思って狙ってやったのですけどね。
卒業して実際に自分がめっきをし始めていちばん最初ぶ実感したことは、何でもかんでも単純化して自動機任せにはできないということでした。
なぜなら、自動化したらその自動機にインプットされている処理条件で行えるめっき処理に合致する比較的状態のいい製品しか処理できず、自由度の幅が非常に狭いからです。
このような中で広く様々な製品に安定して高品質なめっき・表面処理をしようと思うと、設備もさることながら処理を行う人の知識や経験が非常に大切になってきます。
めっきは、めっきをする前の状態でめっきの仕上がりの半分くらいが自動的に決定づけられてしまうので、人間側がその都度金属製品のミクロな状態を認知してそれに合わせた最適な処理法の選定ができなければ、自動機は安定した自動不良品製造装置にしかなりません。
確かに自動化により楽に生産することができるようになったとはいえ、表面処理に必要な知識や経験を捨て去り現状の設備や自動めっき装置に頼りきった処理を行って「出来なりにしかなりません。」「こうにしかなりません。」というのは技術力があるとは言えないと思いますし、お金を使って金属ゴミを量産するのは自分のポリシーに反するので、私はしんどいとわかっていても不良をゼロにするためには自分の身体を動かして手動でめっきすることだけは絶対にやめられませんでした。
おわりに
私自身、これまで「めっきや表面処理は、液に浸けさえすりゃぁ誰でもカンタンにできるんじゃろうが!!」とご指導ご鞭撻を受けた事が何度もありますが、私としては「液の濃度さえわかれば誰でもできるカンタンなモンやと思ってはるんやったら、自分で思う様にしはったらええんと違いますかー」と思っております。
おそらく、同じ経験をしためっき屋さんはたくさんいらっしゃると思います。lol
「モノを作るのであれば、最低でも使用目的の機能を満足に満たすものであるべきだ」というのが私のポリシーです。
わからないなりに仮設を立てて何度も実証実験を行い、繰り返す失敗の中に潜むルールや法則を探し出すこの地道な努力によって得た経験と知識によって確立した手法を用いて安定した品質の製品製造を行うのは、製造業の最低限の義務であり力だと考えております。
金属は人間と違って痛いとか痒いとか、そんなことは何ひとつ喋ってはくれません。
私は、喋れない金属が出す声にならない声に必死に耳を傾けて何度も何度も対話を行いながら表面処理をしてきました。
何が正解かは、金属に聞けばおのずと教えてくれます。求めれば、必ず与えてくれます。
カンタンに答えを言えば、いろんな人が作ったいろんな鋼種のナイフや包丁を自分で研いで様々な場所で使い倒してみてください。ステンレスか炭素鋼かを問わず鋼材を刃物にするとその鋼材が持つ硬さや粘りや耐蝕性といった特性を体験できて非常によくわかります。
こういった科学を自ら行わず、他者に条件だけ聞いてラクにやろうとしたり、どのような影響があるかよくわからないままコストカット最優先で必要な工程を省いたりしてしまうと、特に表面処理はうまく行かないと思います。
最低でも求められる要求に対して満足に機能や性能を満たすことができるめっきを今日まで行ってきたことに対しては自負を持っておりますが、これもまた皆さんに支えられてできたことです。
誠にありがとうございました。
